横浜地方裁判所 昭和43年(借チ)11号 決定
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〔決定理由〕一 本件申立の要旨は次のとおりである。
申立人(工員)は、昭和二二年中件外山岸盛之助から横浜市鶴見区平安町二丁目五番七宅地155.37平方メートル(以下本件土地という。以下平方メートルをm2と表示する。)を木造その他非堅固建物所有の目的で存続期間の定なく建物増改築制限の特約の下に賃貸し(口頭の賃貸借契約)、その地上に家屋番号三九二番の二木造亜鉛葺平家建居宅床面積35.92m2を建築所有し家族と共にこれに居住してきたが、本件土地は昭和四三年四月二〇日代物弁済に因り隣地居住の相手方の所有に帰し(同年五月九日登記)右賃貸人たるの地位は相手方に承認され現在の地代月額合計七〇五円はこれを相手方に支払つて現在に至つている。
ところで、申立人の家族構成は申立人夫婦と男子一人(中学二年生)の三人であつてこの男子の生長に伴い勉強部屋を新たに必要とする外郷里在住の姪(二〇才)が来浜して申立人方に身を寄せ間借するため幸に敷地に余裕があるので右建物の一部(六m2)を除却し同建物に木造瓦葺二階建居宅床面積一階19.80m2二階16.50m2の増築及びこれに伴う改築(別紙図面参照。以下本件増改築という。)をしたく相手方にその承諾を求めたが拒否されたのでその承諾に代る許可の裁判を求める。
二 相手方の主張は次のとおりである。
(一) 本件土地賃貸借契約は元来一時使用を目的とするものであり、かつ本件建物増改築制限の特約がなかつたのであるから、本件申立は理由がない(借地法第九条、第八条ノ二第二項)。即ち本件土地は昭和二二年夏頃申立人が前所有者山岸盛之助に対しバラックを建てる場所がないので困つているから他に借地を求めるまで本件土地を貸してほしい、地主が本件土地を必要とする場合は何時でも明渡すと約したので貸す意思のなかつた同人も申立人に同情して止むなく暫定的、一時的の約で契約書も作成せず賃貸したものであつて、当然のことながら増改築禁止制限の特約はなかつたものである。
(二) 仮りに然らずとするも、別紙記載の理由で本件申立は棄却さるべきである。
三 当裁判所の判断は次のとおりである。
(一) 先づ、本件土地賃貸借契約が当初は一時使用のものであつたがその後然らざるものに転化したことは本件資料を綜合して認められるのであるが、地上建物の増改築禁止等制限の特約があるかどうかの点について、申立人(土地賃貸人)はこれがあることを前提として本件申立をしているところ相手方(賃貸人、地主)はかかる特約の存在を否定して申立棄却の裁判を求めているのであつてかかる特約の存在がその適法要件であるか実体的要件であるか、或いはかかる特約の存否が不明であるとか存在しないとか存在しても無効であるとかいう場合と雖も当事者間に紛争又はその可能性がある以上これを予防、調整、解決することが同法条の主たる立法趣旨であり、従つて同法条に右特約の存在を要件として掲げているのは一種の定型的な場合を特に摘記したに止まるからこれを欠いてもなお進んで審理し許否の裁判をすべきかは見解の岐れるところであるが、かかる要件は実体的な権利保護要件に属し単なる適法要件ではないと解するを正当とすべく、又かかる有効な特約の存在が認められない場合でも形成的に紛争を解決するため他の実体的要件につき審究し、申立を認容するときは延いて附随処分をし事案を抜本塞源的に落着させ以て法律関係の安定を図るべしとの有力な見解にも傾聴すべきものがあるが、しかし立法過程における趣旨及び法条の文言等に徴するとこの見解を直ちに採用することに躊躇を覚えざるをえない。すなわち、かかる特約の有効な存在が認められない限り、そして事件が和解又は調停で解決する具体的可能性の発見されない以上、矢張り申立を棄却すべきものとせざるを得ない。
(二) 今、これを本件についてみるに相手方(土地賃貸人、地主)が本件土地賃貸借には地上建物増改築制限の特約はないと主張している(前掲)のであつて、しかも本件に顕われた一切の資料によるもかかる特約の存在を認めないから、結局本件増改築許可申立はこれを棄却すべきである。
(三) なお、以上の通り、本件土地賃貸借契約には増改築制限の特約がないのであるから、申立人は、本件借地契約の趣旨(非堅固建物の所有目的)及び関係法規に違反しない限度で、自由に地上建物の増改築をすることができるわけであるが、同時にその反面その増改築があつたからとて相手方(地主)は本件土地賃貸借契約存続期間満了の際借地法第七条所定の異議権を奪われるものでもなく(最高裁昭和三三年一月二三日第一小法廷判決民集一二巻一号七二頁、解説民事篇同年No.4六頁参照)、又借地法第二条第一項但書所定の建物(旧建物)の朽廃に因る借地権消滅の利益の享受を妨げられるものでもない(最高裁昭和四二年九月二一日第一小法廷判決、民集二一巻七号一八五二頁、解説民事篇同年No.80四三〇頁参照)、と解するを正当とする。(若尾元)